新型コロナウイルス感染症対策
2020年4月7日に病院ホームページで医療崩壊について述べましたように、医療崩壊というのは、医療提供体制の不足ゆえに病気の人が適切な医療を受けられないという状態です。新型コロナウイルス感染症(以下COVID19)という病気にかかった人が適切な医療を受けられないという状態になった時、医療崩壊に陥ったということになります。しかし実はCOVID19に対する適切な医療は受けられるが、それ以外の病気や事故にあった人が適切な医療を受けられないという状態になればそれも立派な医療崩壊です。
COVID19が第3波を迎え、その発生を抑え込むために様々な政策がとられています。医療崩壊を生じさせないためのCOVID19発生抑制策はよしとしましょう。しかし、COVID19感染者がさらに増加することに備えるという目的のために、通常医療を行うための医療資源(病床や医師や看護師など)を大量にシフトさせるという政策には大きな問題があります。
医療崩壊が起こらないに越したことはありません。しかし、医療崩壊が起こるとした場合、どの医療の崩壊を許容するのかという大きな方針を国民と為政者は前もって決めておく必要があります。新型コロナウイルス感染症に対する医療を守り抜くために通常医療が崩壊するのはやむを得ないとするのか、それとも、通常医療はあくまでも守りぬきCOVID19に対する医療の崩壊は許容するのか、どちらを選ぶのが良いのでしょうか?現在の為政者はその点をあまり深く考えていないようですが、現在採用している政策は前者に基づくように見えます。
COVID19に対する医療はこの感染症に対応している医療者の努力によって随分と進歩してきました。しかし、それでも通常の医療ほどの普遍性や合理性や効率性をもって行われるには至っていません。例えば、このウイルスによって生じた重症肺炎に対する治療法として人工心肺装置(エクモ)が効果的であることがわかって、重症者にはこの装置を使うことが当然のようになりましたが、この治療は実はCOVID19肺炎にだけ効果があるのではなく、それ以外の重症肺炎に対しても効果がある治療です。しかし、この感染症が流行する以前、いや現在もこのCOVID19重症肺炎以外の重症肺炎に対して人工心肺装置を用いるような通常医療はおこなわれていません。コロナ肺炎の人の命は万難を排して救わなければならないが、それ以外の原因の肺炎の人は死んでも構わないという価値判断でしょうか? また、無症状あるいは軽症のCOVID19は稀に重症化するので病状の変化を早期に発見すべきではありますが、そうでない限り医療を提供すべき対象ではありません。
今の政策や世論は少なくともこれまでの通常医療の視点から見れば、COVID19感染者に対して過度過剰な医療や不必要な医療を行うことを医療界に強いています。 これが医療崩壊を起こしやすくしている元凶です。
なお、COVID19感染者への医療が崩壊したからと言って感染が拡大するというものではありません。感染拡大はCOVID19医療の崩壊の原因にはなりますが、COVID19医療の崩壊が感染拡大の原因になるものではありません。
日本で病気や事故で亡くなる方は1年間で約150万人です。通常医療がきちんと供給されているお陰でこの150万人の中に入らずに済んだ人の数は150万の何倍にも達することでしょう。COVID19でこの1年間に日本で亡くなったのは約3000人ですが、COVID19に対する医療が行われなかったとした場合、この数がどの程度まで増えていたのでしょうか?約1~2万人程ではないでしょうか。
COVID19感染者に対する医療はまだまだ効率的でないので、COVID19に対する医療を守るためには不相応に大量の医療資源を通常医療からシフトさせなければならないということを考えれば、「医療崩壊したらCOVID19にかかったときに適切な医療が受けられなくなる」という選択肢を選ぶのか、「医療崩壊してもCOVID19に対する医療は死守するがそれ以外の病気や事故などに対する適切な医療は受けられなくなる」という選択肢を選ぶのか、賢者の選択は明らかだと思います。
令和2年12月23日