医療崩壊を抑止するための当院の姿勢について

新型コロナウィルスの蔓延により、日本でもイタリアなどと同様な医療崩壊が起こるのではないかと危惧されています。医療崩壊というのは、医療提供体制の不足のゆえに病気の人が適切な医療を受けられないという状態です。

医療崩壊が起こるのは医療の需給バランスが崩れるからです。医療需要が激増するにも拘わらず医療提供力がそれに追い付かないというだけでなく、今回の場合は医療提供力そのものの減少が起こると予想されています。すなわち、医療従事者が感染することにより今まで提供できていた程度の医療さえも提供できなくなるという面、そしてコロナ感染予防対策として通常疾患に対する医療の提供を控えるという面もあります。

そのような中で、医療機関側としては最大限に医療を提供するという方向性で医療崩壊が生じないように体制を整えなければなりません。「医療の提供」においては各医療機関の特性に応じてそれぞれの役割を果たすべきです。その役割の果たし方には主に2種類があります。新型コロナウィルス感染症に対する医療を提供する役割、そして従前の疾患に対しての医療(以下従来医療と記す)を提供し続ける役割、この2つです。

当院の現状を披露しますと、当院では呼吸器内科という診療部門に常勤専門医がおらず、専門医による呼吸器内科外来診療が応援医師によって週2日行われている程度です。主に呼吸器症状を呈する新型コロナ感染症患者の入院加療を行うには体制が不十分です。また、当院は急性期疾患対応病院で常時200名前後の入院患者がいますが、その年齢の中央値が78~79歳と高く、高齢入院者が大変多い医療機関です。新型コロナ感染症は高齢者での重症化率や死亡率が若年者に比べて大変高いのはご存知でしょう。そのような特徴を考慮すれば当院では新型コロナ感染症患者を受け入れることによる院内感染の発生は極力避けねばならないと考えます。このような考え方をもとに、従来医療をしっかりと提供し続けるという方向性で医療崩壊を抑止する役割を果たしていくという姿勢を当院首脳による管理職会議の全員一致で決定しました。

一部の医療機関ではまだ医療崩壊が始まっていないにも関わらず、従来医療を控える方向性が見られます。新型コロナ感染症に対する医療を提供しようとする立場の医療機関であれば従来医療の提供を控え、爆発する新型コロナ患者の受け入れに備えるということが必要でしょう。しかし従来医療を提供することで医療崩壊を食い止めようとする立場の本院のような医療機関であれば、ぎりぎりまで、いや崩壊に突き進んだ後でさえ極力従来医療を提供し続けるという方向性で動くべきであると考えています。

本日緊急事態宣言が発令されます。このような緊急事態であるからこそ慌てふためくことなく医療人として正しく状況判断しながら当院の果たすべき役割をきちんと果たして行きたいと考えます。

令和2年4月7日
病院長 細川 亙