病院長挨拶

コロナ禍を振り返って

辻 晋吾病院長

新型コロナウイルスが中国武漢市で初めて検出されたのは2019年12月8日とされています。コロナは風邪をひき起こすウイルスですが、変異しやすくワクチンが作りにくい一方、SARSやMERSと呼ばれる重症肺炎を起こす亜型が流行した因縁があります。2019年10月8日には航空会社、製薬会社の代表、中国CDC所長などを招聘した”EVENT 201”という会議がビル・ゲイツ財団の主催で行われ、新型コロナの流行があれば航空便を運行休止し感染拡大を防止すること、新型ワクチンを開発することなどが議論されていました。 残念ながら約50日後に起こった今回の世界的流行を抑え込むことにはなりませんでした。当の武漢市郊外には米国の財団が資金提供した研究所があり、米国で禁止されているウイルスの機能獲得実験や蝙蝠由来コロナウイルスの研究が行われていたという事は悪いジョークの様な話です。

私が新型コロナウイルス患者に初めて接したのは2020年3月9日です。2月24日にライブハウスの公演を観に行った女性が、1週間38度以上の発熱と倦怠感が続いていると来院されました。実は当院の姉妹病院がダイヤモンド・プリンセス号で発症したコロナ患者に対応しており情報共有を行っておりました。この方の胸部CTを撮影したところコロナ肺炎に特徴的な画像でありました。症状は軽症で、保健所にPCR検体を提出し解熱薬や鎮咳薬で自宅療養することにしました。後日保健所より新型コロナで間違いないとの連絡がありました。私はワイドショーで話題になった「ソープオペラクラシック」事件の患者を拝見したことになります。それ以降、大阪においても新型コロナの流行の波が何回も何回も押し寄せることになりました。

私の専門分野は消化器内科でしたが、事ここに至ってはいやも応もありません。病院の医師、看護師、検査技師、放射線技師はもとより、事務方のスタッフも総動員した体制をとることになりました。コロナの外来診療は外科系の先生方にお願いし、入院患者は12階を専用病棟として内科医が担当しました。特に負担が大きかったのは暑苦しい防護衣姿で勤務する看護師の皆様であったことは言うまでもありません。

急性期病床抑制を長年行ってきたわが国の医療体制はこのようなパンデミックには脆弱です。それでも大阪府は大規模療養センターや高齢者用施設を立ち上げたりしておりました。当院はこれらのバックアップを担当しましたが幸いこれらの施設から対応に困るほどの受け入れはせずに済みました。全体として大阪府は日本の中でも、コロナ禍をうまく乗り切った方ではないかと思います

昨年5月8日に新型コロナウイルス感染症の取り扱いが季節性インフルエンザ並みの5類に引き下げられてから1年近くが経過することになります。今では会社員が風邪で会社を休むのにもコロナの検査は不要となりました。コロナ検査は緊急入院の際に念のために行うものになりました。一方で訪日客は激増しており新たに感染症が流行するリスクはむしろ高まっているかも知れません。公費による特例措置も終了した一方で医療機関においては感染予防への努力は続けなくてはなりません。感染対策を万全にしながら今まで以上に通常診療を行ってまいります。

今後ともご支援のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

JCHO大阪みなと中央病院 院長  辻 晋吾