病院長挨拶-2025年問題と骨粗鬆症・ロコモティブシンドローム

2025年問題と骨粗鬆症・ロコモティブシンドローム

「2025年問題」というのがあります。新聞でよく出る「大阪万博!」という話ではありません。2025年にはいわゆる「団塊の世代」が75歳を超え、医療や介護によるサポートを受ける人が急に増えてきます。これより10歳若い年齢層の人も65歳の定年を迎えてきます。65歳を超えた世代の何割かは85歳を超えた親を持っていますが、親の介護も肉体的に厳しくなってきます。すなわち2025年から医療や介護に対する社会の負担と皆さんの負担がこれまで以上に増え始めるというのが2025年問題です。

特に75歳以上の皆さんは身体に不調が出はじめます。内臓に問題がない人でも、骨と筋肉はかなり衰えます。若い頃にバイクで転倒して脚の骨を折ったのであればはっきりと骨折とわかるのですが、高齢になると「知らないうちに腰椎が圧迫骨折を起こしていた」といったことが少なからず起こってきます。

病院長 辻 晋吾

骨折のリスクは年齢とともに高まってきますが、実は国際共同研究の結果、飲酒や喫煙といった生活習慣の影響を受ける、いわば「第二の生活習慣病」という側面もあることが判っています。ちなみに英国シェフィールド大学ではこの研究結果を基にして向こう10年間の個人の骨折リスクを占うFRAXというツールを開発しています。日本人を対象にしたものもあるので下にそのアドレスを書いておきます。スマホなどでQRコードをスキャンされても良いでしょう。ご自身の骨密度が判っていればツールに入力してもいいですが、判らない場合は空欄のままで差支えありません。主要骨の10年間骨折確率が10%以上なら骨粗鬆症の診療を受けるべきでしょう。

骨折リスクが高い方は一度骨密度を測定してもらうとよいと思います。健診で使われる定量的超音波測定法で調べてもらうのも一法ですが、結果から骨粗鬆症の診断を確定することはできません。整形外科の先生の診察を受けてDEXA法を使って調べてもらうことをお勧めします。そのうえで治療や予防の方策を考えてもらいましょう。

高齢になって起こるもう一つの現象が筋力低下です。筋力の低下自体は病気ではありませんが、特に下肢の筋力が低下すると移動能力が低下します。バランスがとりづらくなり片足立ちで靴下がはけなくなったり、手すりを使わずに階段が登れなくなったり、歩いて買い物に行けなくなったりします。この状態を最近ではロコモティブシンドロームと呼び、場合によっては横断歩道を青信号がついている間に渡りきれなくなってきます。さらに進めば寝たきりや要介護状態になる原因となることは明らかです。これも簡単な検査法がありますので紹介しておきます。

なお先ほど、「筋力低下自体は病気ではない」と言いましたが、急速に筋力低下が進んでくる場合があります。変形性関節症や関節リウマチなど原因がわかっている場合もありますが、原因不明であれば脊柱管狭窄症などが隠れた原因となっている場合があります。整形外科の先生に相談するのがよいでしょう。

「2025年」で話が始まったので、万博の話も少ししておきましょう。都市主催のオリンピックとは違い、万博は国家プロジェクトです。1851年ロンドンで開催された万博は、結果的に工業化社会の到来を象徴するものとなりました。4年後にパリで行われた万博では、格付けされたボルドー・ワインや、バカラ、ルイ・ヴィトン、エルメスなど今も続くフランスのブランドが喧伝されました。1970年の大阪万博では、電気自動車や携帯電話などが披露されました。今回の大阪万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」で、サブテーマとして「いのちを救う」「いのち力を与える」「いのちを繋ぐ」の3つが挙がっています。高齢化先進国である日本で、ひとが自らの可能性を最大限に発揮できるようにする最も簡単な方法は、自らが健康であり続けることでしょう。

JCHO大阪みなと中央病院 院長  辻 晋吾