この数字は多いのでしょうか少ないのでしょうか。実は多いとか少ないとかいう評価は、その事実と比較する何らかの相手があってこそできるものです。だから何と比較対照するかによってその評価(多いか少ないか)も左右されるのが当然です。
台湾における死者数や感染者数と比べれば日本のこの数字は大変多いことになりますし、アメリカ合衆国における死者数や感染者数と比較すれば逆に随分少ないことになります。ただ、台湾やアメリカとの比較もその国々の人口を考慮して比較すべきでしょうし、人口よりも人口密度のほうがより重要な因子であるかもしれません。それらの数字も考慮に入れながら1000人あるいは3万人という数字が多いのか少ないのかを考えなければなりません。他国との比較だけではありません。日本国内において毎日亡くなる方の数とCOVID19で亡くなる方の数との比較もしてみたらいかがでしょうか? すべての死因を合わせればおおよそ4000人が毎日日本で亡くなっています。COVID19で亡くなったのはほぼ6か月間で1000人ですから1日あたりは5人程度です。日々亡くなっている4000人のうちで5人ほどがCOVID19を死因としているということです。なお、 1日あたりでなく、半年(6か月)間で見れば、この間の日本での総死者数は70万人程度でそのうち1000人がCOVID19を死因としていることになります。このような数字も見つめながら、1000という数字、あるいは3万という数字を評価するようにしましょう。
私は1病院の院長にすぎませんが、大阪における感染者数の増加などのデータを睨みながら、その数字に対する評価を下し、その評価のもとに病院としての対策の必要性を判断し、様々な対策の有効性や負担(労力面・費用面)などを考えながら、当院でのCOVID19の院内感染発生の危険性を抑えようとしています。つい最近も少し体調の悪い職員が発生したので直ちにPCR検査を行いました。陰性でしたがなおも体調は優れず、しかも「味覚嗅覚障害の症状が出た」と報告がありました。そこで最初の検査からまた約1週間後に再びPCR検査を行いました。この前後、基本的にこの職員を勤務から外しますが、この職員との濃厚接触者(今回それにあたる人はいませんでした)あるいは濃厚接触者でなくてもある程度の接触のあった職員、これらの人たちそれぞれに適切と思われる指示を出し「PCR陽性」の検査結果に備えます。お陰様で2回目もPCR検査陰性の結果で胸をなでおろしましたが、このような毎日を高齢入院者の多い病院の病院長として送っています。しかし、すべての人が私と同じような注意をしないといけないわけではありません。若くて健康な人は特別な職種でなければこの疾患をそう恐れる必要はありません。ただ、周囲の高齢者や病者にはうつさないように注意が必要です。
COVID19に対するいろいろな情報を正しく情報処理し、ご自分の立場を考え、恐れるべきは恐れ、受け止めるべきリスクは受け止めていくという態度がこの疾患に対する正しい態度であると思っています。
令和2年7月27日
病院長 細川 亙