お陰様で本院は、全国各地から不足気味の医療物資などのご寄付も頂き、何とか従来医療の提供を以前に近い形で続けることができています。そして幸いにも5月7日時点まで本院では医療従事者にも入院患者にもPCR検査陽性者の発生はなく院内感染も生じていません。しかし本院の外来受診者の中にはPCR検査を行って陽性と出た人が9名ありました。全国で検査陽性とされた約15,000人のうち当院で診断された人が9人というのが多いのか少ないのかはわかりませんが、COVID-19に対する直接的な治療を提供していない本院においてさえも、診療行為を介しての医療従事者へのウィルス感染の危険性は常に抱えているわけです。もしもこの危険性をゼロにしようとするならば医療の提供を止めるしかありません。
しかし私は病院長として“医療崩壊を抑止するための当院の姿勢について”を表明し、この危険性を当院の医療従事者に引き受けてもらうという選択をしました。全く反対がなかったわけではありませんが、総じて職員はこの決定に対して協力的でした。そしてその職員たちの心意気を悲劇にしないためにもできる限りの感染防護策をとって従来医療を提供しています。しかし、確率は決してゼロにはなりません。私は外来受診者の中に潜む新型コロナウィルス保持者などから職員が感染するというストーリーを常に頭に描いています。それが起こった時にはある程度の院内感染を生じてしまうかもしれません。
全国の医療機関で新型コロナウィルス院内感染の発生が報告されています。そしてそれに対するマスコミなどでのバッシングも少なからず見られます。もちろん不十分な感染防護対策が原因のこともあるでしょう。しかし基本的には院内感染発生の可能性を受容しなければ医療の提供はできないという厳しい現実を見据えてほしいと思います。院内感染発生の原因や状況などについて詳細を調べることもなくむやみに非難することは、リスクを冒して医療を提供している医療機関を萎縮させ撤退させることになります。もちろん起こってしまった院内感染を分析し、それをその後の感染防護策に役立てるという方向性での事例活用は大事で、それは実際に専門家によって行われています。院内感染を何とか抑止したいという思いから発露されるバッシングなのかもしれませんが、情動的な非難が医療事情を改善させることにはなりません。
緊急事態宣言ののち、感染拡大のスピードは減速しているように見えます。しかし経済活動もまた業種によっては減速どころか緊急停止に近い状態に追い込まれています。どれほどのどのようなリスクと痛みを国民は引き受けるのかという選択を国民自身が選ぶべきときが迫ってきているようです。
令和2年5月7日
病院長 細川 亙