新型コロナ感染症における医療機関の苦悩-感染率との闘い-

感染性疾患が流行しないようにするために最も重要なのは、非感染者と感染者をしっかりと区別して、それらを別に置くということです。そのためには非感染者と感染者を明確に区別しなければなりませんが、今回の新型コロナウィルスの場合はどうでしょう。4月20日時点でいろいろな集団においてどの程度の割合で新型コロナウィルス非感染者と感染者とが存在するのか考えてみましょう。

日本では新型コロナウィルス感染者数の累計が10,000人を超えました。まだ感染が確認されていない感染者もきっと数千人程度いることでしょう。1億3,000万人程度が住む日本ですから、ある1個人を無作為に取り上げて、その人が新型コロナウィルスに感染している確率は10,000分の1程度です。感染が確認され病院やホテルなどに隔離されている人を除いてしまえば、感染者率は20,000分の1程度に下がります。

一方、帰国者接触者外来を受診した人に限定すれば100分の1ないし10分の1程度の確率で感染者がいることでしょう。そして新型コロナウィルス治療や隔離のために病院に入院している人たちを一つの集団とすれば、そこにいる人たちは1分の1、すなわち100%が感染者です。

さて、多くの人は100%コロナ感染者集団に対する対応というものが医療機関にとって最も難しい作業であると考えることでしょう。しかしそうではありません。この集団に属する人はすべて「感染者」としてひとくくりにできるのであり、この集団に属する全員を隔離し、治療が必要な人に対してのみ医療を供給すればよいのです。そして医療従事者への感染防御対策もこの集団を相手にする場合には高水準で行うことができます。

では10人の中に1人の患者がいる集団、これはどのように扱えばよいでしょうか。実は大変難しい問題なのです。10人の中に1人だけ黒がいるが残りの9人は白という場合、この集団をまとめて黒として扱えば白の9人も皆感染するでしょう。しかしこの集団を白として扱えば、通常の感染確率に比べて2,000倍も高い感染確率を持った集団を白扱いにするという危険を侵すことになります。この両方の危険を避けようとすれば、10人を一つの集団として扱うのではなく、10人を個別に隔離するということが必要であり、医療者側も10人から感染しないように10人すべてに対して完全防備する対応をとらねばなりません。しかしそれはそれで医療資源の問題(人、物)などの点からかなり難しいというよりほぼ不可能なことなのです。

当院では従来医療の提供を続けるために、医療材料の節約と確保のほか院内感染の発生防止を至上命題としています。外来診察においても通常の患者さんを診る外来と分けて第2外来として感染確率が一般集団より高いであろう人たちを選り分けて別扱いにしています。

このような様々な工夫と知恵で入院患者の方々や職員の感染確率を下げ、しかも医療材料を極力節約しながら新型コロナウィルスに対峙しているのです。

令和2年4月20日
病院長 細川 亙