病院長挨拶-冬に注意したい感染性胃腸炎について

新年あいさつ

新年あけましておめでとうございます。 多くの皆さまにおかれましては、新春をお迎えのことと心よりお慶び申し上げます。
ただし昨年秋からA型インフルエンザ香港型(H3N2)が流行しており流行が長期化することが予想されます。ご高齢の方や乳幼児、腎不全などの基礎疾患をお持ちの方は重症化するリスクが高いため、マスク着用や手洗いなど、コロナと同様の感染予防措置の励行をお願い致します。同様にウイルス性の急性胃腸炎も流行する時期になりますので、体調不良がありましたらかかりつけの先生にご相談される事をお勧めします。
本年の干支である「午」は、力強く前へ進む象徴とされております。当院が、患者さんと地域にとって「安心して任せられる存在」であり続けるために、医療の質と安全の向上に真摯に取り組み、地域の先生方と連携しながら、信頼される病院づくりを進めてまいります。
本年が皆さまにとって実り多き一年となりますことを祈念し、新年のごあいさつといたします。

病院長 辻 晋吾

冬に注意したい感染性胃腸炎について

はじめに

感染性胃腸炎は、私たちの日常生活の中で誰もが経験する可能性のある疾患です。特に冬季にはノロウイルスなどによる集団発生が多く、家庭や学校、職場など様々な場面で広がることがあります。症状は軽度で済む場合もありますが、乳幼児や高齢者、基礎疾患を持つ方では重症化することもあり、社会全体での注意が必要です。食事に起因する胃腸炎や神経障害などを総称して「食中毒」と呼んでおり医師が届け出ることになっていますが、毎年7,300人~12,500人がノロウイルスによる食中毒にかかっています。実際には食事以外の原因も多くあるのでノロウイルスによる感染性胃腸炎にかかった方はもっと多いことでしょう。
ここでは、ノロウイルスによる感染性胃腸炎について、ウイルスの特徴、症状、経過、重症化しやすい方の特徴、そして予防策までをお伝えしたいと思います。

①ノロウイルスとはどのようなウイルスか

ノロウイルスは、ヒトの腸管に感染し、主に急性胃腸炎を引き起こすウイルスです。非常に感染力が強く、10個~100個程度のウイルスでも発症するのが特徴です。ノロウイルスは主に12月~3月の冬季に流行しやすく、集団感染の原因となることが多いです。感染経路は、ウイルスに汚染された食品や水の摂取、感染者の吐物や糞便を介した接触感染、さらには飛沫感染も報告されています。インフルエンザウイルスやコロナウイルスはウイルスがエンベロープという油脂性の膜で覆われているためアルコールでエンベロープを破壊すると感染性が落ちます。これに比べるとノロウイルスは小さな蛋白質の殻に覆われており環境中での抵抗性が高く、アルコール消毒が効きにくくなっています。このためノロウイルスの感染予防には、手洗いや熱や漂白剤を用いた消毒が必要になります。ノロウイルスは変異しやすく、何度も感染する可能性があるため、流行時期には特に注意が必要です。

②ノロウイルス性感染性胃腸炎の症状

ノロウイルスによる感染性胃腸炎の主な症状は、突然の嘔吐、下痢、腹痛、軽度の発熱です。特に嘔吐は発症初期に多くみられ、乳幼児や高齢者では脱水症状に注意が必要です。症状は通常1~2日で自然に軽快しますが、体力のない方では重症化することもあります。発熱はあっても軽度で、インフルエンザなど他の感染症と区別するポイントとなります。症状が出た場合は、無理に食事を摂らず、こまめな水分補給と安静が大切です。

③ノロウイルスによる感染性胃腸炎の経過と自宅療養

ノロウイルス感染症は、潜伏期間が1~2日と短く、発症も急激です。多くの場合、症状は1~2日で自然に回復します。長引いても発症から5日以上続くことは稀でしょう。嘔吐や下痢による脱水症状には特に注意が必要です。特に乳幼児や高齢者、基礎疾患を持つ方では、脱水が進行しやすく、重症化することがあります。経口補水液が飲める方であれば脱水症状を改善するのには役立つと思います。薬局などで販売されているものですが、1リットルの水に40gの砂糖(大さじ4.5杯)と食塩3g(小さじ0.5杯)を溶かして似たものを作れますので自作しても良いでしょう(図)。味を調えるためレモンなど果汁を加える人もいます。ただし嘔吐がひどく受けつけない状態であれば無理をせず医療機関に相談するのが良いでしょう。回復期には消化の良い食事から徐々に再開し、十分な休養を取ることが重要です。症状が長引く場合や、強い脱水症状がみられる場合も、医療機関の受診を検討してください。

図 経口補水液の自作方の例

④ 乳幼児や高齢者、担癌患者などで予後が悪い理由

乳幼児や高齢者、担癌患者などは、体力や免疫力が低下しているため、ノロウイルス感染による脱水症状や電解質異常が重症化しやすいです。特に脱水により腎障害を起こしたり低ナトリウム血症になったり、血中pHが大幅に狂うと危険です。また乳幼児が胃腸炎にかかった場合は体内の水分量が少なく、嘔吐や下痢による水分喪失が急速に進行しますので小児科のある急性期病院に相談しましょう。高齢者や担癌患者では、基礎疾患や治療の影響で免疫機能が低下していることが多く、感染症全般に対する抵抗力が弱くなっています。そのため、重症化や合併症のリスクが高く、入院治療が必要となる場合もあります。

⑤ 感染予防について

ノロウイルスの感染予防には、手洗いの徹底と適切な消毒が最も重要です。特にトイレの後や調理前後、患者の介抱をした後は、石けんと流水でしっかりと手を洗いましょう。マスクをし、手袋を二重にし、エプロンをつけるなど自分自身が感染しないように注意しましょう。汚れた衣服は他の衣服とは別にしてマスクと手袋をしたうえで固形物は除き、水洗いと洗剤を使ったもみ洗いをしましょう。色落ちが問題にならなければ漂白剤をつかった消毒をしましょう。色落ちしそうであれば85℃以上の熱湯に60~90秒浸して消毒しましょう。洗濯機をつかった洗濯は消毒が済んでからが安全です。

アルコール消毒はノロウイルスで汚染した吐物や糞便、便器などの消毒には向きません。ウイルスを含む吐物などは乾燥しても飛沫を吸い込むと感染することがあります。このように患者から出た汚染物は二次感染の原因となるため、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用漂白剤など)を用いた消毒を行うようにするのが良いでしょう。台所にあるキッチンハイターであれば500mLの空きペットボトルにペットボトルのキャップ半分ぐらいのキッチンハイター原液を入れて250mLの水で薄めれば消毒液は作れます。ただしキッチンハイターは強いアルカリで漂白作用も強いので、消毒薬を自作する場合はゴム手袋をつけて作ってください。吐物や糞便が付着した場所は、使い捨ての手袋・マスクを着用し、使い捨てのペーパータオルなどでしっかりと拭き取り、ビニール袋などに収容してください。その後、汚染した部分は消毒液を浸したペーパータオルで10分程度覆って消毒し、水拭きして錆や変色を抑えて下さい。食器などであれば85℃以上90秒程度の熱湯(煮沸)消毒も有効です。畳やカーペットなどであればスチームアイロンで85℃程度の蒸気を1分以上当てても良いでしょう。消毒後は手洗いを十分に行い、感染拡大を防ぎましょう。