病院長挨拶-新年度を迎えて

新年度を迎えて

 

JCHO大阪みなと中央病院長 細川 亙

細川 亙院長

令和2年度を迎えました。新たな年度で期待に胸を膨らませて・・といきたいところですが、新型コロナ感染症のことを考えれば、そのような気持ちにはとてもなれません。新年度のご挨拶に代えて新型コロナウィルス感染症についてお話ししましょう。

実はちょうど100年ほど前、世界中で極めて多くの死者を出したスペイン風邪の大流行がありました。この時には日本だけでも約40万人が死亡し、全世界での死者は数千万人に達したと推定されています。このスペイン風邪は大流行の後に消えてしまったのではなく、その後はしばしば流行するインフルエンザになってしまったと考えられます。ただ人類がこのウィルスに対する抵抗力をつけたため、スペイン風邪ウィルスは当初のころほどの毒性を示さなくなったのです。

さて新型コロナウィルスが世界中で抑え込まれ消滅してしまうとすればそれは最も望ましいストーリーではあります。しかし諸外国での蔓延の状態を見るとその可能性は低いのではないでしょうか。一旦は日本も含めたいくつかの国が水際対策などで蔓延を阻止できたとしても、世界のいたるところでこのウィルスが生存しているようなことになれば、結局阻止できた国でさえその後ずっと流入を防ぎ続けることは困難でしょう。

あと一つ今回のウィルスが世界に拡がるであろう理由があります。このウィルスに感染しても症状が出ない、あるいは症状が軽い場合がかなりあるということです。症状が出ないあるいは軽いということは大変ありがたいことのようですが、ウィルスの封じ込めという観点からは大変厄介なことです。症状のない感染者や言わば保菌者のような人たちを見つけ出すことは容易ではありません。このようなタイプの病原性を示すウィルスは封じ込めが困難なのです。

このウィルスが蔓延した場合、最終的には風邪や流行性感冒に近いものになってしまうでしょう。しかし人類が抵抗力をつける前、そして治療法を見つける前の段階ではこの病気の蔓延によりある程度の数の死者が出てしまいます。今はちょうどそのような段階にあります。そしてこの段階で必要なことは、感染・伝播をコントロールすること、治療法を開発すること、この2種類です。後者は医師などの専門家に委ねざるを得ません。しかし前者は一般大衆が主役の舞台です。どのようにすれば他人からうつる確率を減らせるか、どのようにすれば自分から(時には自分を介して)他人にうつる確率を減らせるか、皆がこのことを考えながら行動することが必要です。自分が感染することを恐れるだけでなく、症状がなくても自分がウィルスを持っているかもしれないという仮定の下に他人にうつさない行動をとるようにしてください。根拠のない言説に左右されず正しい知識を身に着けてコロナとの闘いという舞台の上で皆様が主役を演じてくださることを期待します。令和2年度に明るい日差しが差し込んでくることを夢見て。

JCHO大阪みなと中央病院長 細川 亙