緊急事態宣言解除後の本院の対応

大阪においてもそして全国においても緊急事態宣言が解除されました。もちろん、新型コロナウイルス感染の危険性が消えたわけではありません。この疾患の流行が完全に収まったわけでもないのに、どうして緊急事態宣言を解除するのか、様々な自粛要請を解きつつあるのか。それは緊急事態宣言後に行われたような規制を続ければ、感染症を抑え込めたとしても日本の社会経済が立ち行かないことになるという判断がなされたからです。今規制を解くのは、これまでのように規制していては社会がうまく回らないからこそ規制を解除するのです。社会経済を破滅させないために、これまでは禁止した行動も自粛せずにどうぞやって下さいというのが政治からのメッセージなのです。これまで「ダメ」とされた行動が許されたからと言って突然やることは、まじめな人たちには抵抗があるでしょう。でも、昨日までの「ダメ」は今日見逃されて「ダメでなくなった」のではなく、社会経済のための「やってほしい行い」になったのです。もちろん同じ経済効果を生む行動であれば、極力感染リスクを下げた状態で行うのが良いでしょう。特にクラスター対策は大事です。

 

 しかしそれでも規制の緩和によってまた感染者数が増加してくることは間違いないことです。これは想定の範囲内、というか想定そのものと言ってよいのです。この病気は最終的には全世界で蔓延し日本でも蔓延するのです(病院長挨拶“新年度を迎えて”令和2年度4月1日付)が、「どのくらいの期間をかけて蔓延させるか」というのが重要なところです。これについても病院長挨拶で書きましたが、まさにこれが「感染・伝播をコントロールすること」です。決して「感染・伝播をゼロにすること」が社会目標ではありません。

規制や自粛をする年月が長ければ長いほど、社会経済にとっては打撃となります。できるだけ早くこの感染症が蔓延したほうが社会経済的なダメージは小さい。しかし、蔓延速度が早すぎれば、医療崩壊を起こしかねません。医療崩壊を起こさない程度に速く蔓延させることがこの感染症に対する防御と社会経済の防衛という二律背反的な命題に対する妥協的な答えです。効果のある治療薬やワクチンの開発により医療崩壊を起こす閾値が上がれば蔓延に要する期間を短縮することができるでしょう。しかしそれはかなり運任せです。

社会経済を破滅させないためにも危険性とのバランスをとりながら社会を動かしていかなければなりません。実は医療機関さえもが今回の感染症流行で多額の赤字に陥り、倒産の恐れさえもないとは言えない状況に陥っているところもあるようです。当院においても感染予防対策としていくつかの医療(消化器内視鏡検査、健康診断など)を縮小あるいは停止しておりました。これらについて、6月1日あるいは6月半ばから再稼働していくという方針を5月25日の管理職会議で全員一致で決定致しました。これで当院は新型コロナウイルス感染症流行前の医療にほぼ復することになります。

これまでも、従来医療を極力続けるという方針を貫いてきましたが、幸いにも入院患者の方々や職員にもPCR陽性者が出ず、院内感染もなく経過することができました。また、一方で保健所などからの要請に応じ、PCR検査検体の採取を数百件もお引き受けし、陽性者10名をCOVID19患者と診断し、適切な感染症対応医療施設に送りました。この間当院で行われてきた医療提供につき病院長として大変誇りに思いますとともに患者様を含め病院にお越しの方々、また不足する医療物資を援助してくださった全国の方々、そして危険にさらされながら医療を提供し続けた職員の皆様方に対する深甚なる敬意を表します。

緊急事態宣言解除後はこれまで以上に従来医療の提供をしっかりと続けていきますので、変わらぬご支援のほどお願い申し上げます。

令和2年5月26日
病院長 細川 亙